Top / は〜つ・おぶ・愛あん ドイツルートその3 / -モードル-
これは、独ソ戦前に起こった、小さな小さな物語
ドイツで起きた、独軍特有の無数のお祭り騒ぎの、小さな一つ。
誰もが知りながらも、誰も口に出せない、後世に伝えられない物語―――。
始まるわよー †
〜ベルリン 総統府〜
チャリティーコンサート、ですか。
そうさね。現状、独ソ戦が始まっていない以上……政務やら調整やらに忙殺される高官を除けば、軍の連中は結構暇さ。で、暇持て余した馬鹿の一部からこんな案が出て来たさ。
良いんじゃありませんか?戦災孤児の孤児院への寄付を募るチャリティーコンサートでしょう?
まぁ、予算もかかりませんしね……っていうか、予算0マルクってどうやってコンサートやる気なんですか、彼らは。
特に暇な海軍が、要塞建築やらその他諸々で余った廃材で急ピッチでステージ建造してるさ。で、空軍連中が新聞折り込みのチラシの裏に手書きで広告を作成して、陸軍連中がそれを各所に貼って回ってるさね。
……何なんですか、その無駄なコンビネーション。
……半分は間違いなく、アンタが予算ケチるからだと思うさ。
鬼の金庫番が居ますからね。世界一お金を使わずにイベントを起こす事に長けた軍隊でしょう。
……なんでそもそも、イベントを起こさないと言う選択肢が無いんですか。
……ドイツ軍だからとしか説明のしようが無いさね。
軍部でもルントシュテットさんの仕事量は半端無い事になってますけどね。
……参謀総長でも各軍総司令でもないルントシュテットが?なんでまた?
まぁ、海軍はもう比較的仕事がありません。空軍も、鈴久さんが半ば後方担当になってますんで(部隊指揮官として部隊率いてないので)、こちらも自分のトコで自分の書類は片付けられます。
ですが普段の事務仕事に関して言えば、陸軍の方が大変劣悪な状況でして……。
〜陸軍本部〜
おぅいぇー!私は女子供も笑って殺せる冷酷非道のハンコ押しマシーンです!どんな書類も持って来てください!すぐにハンコを押してやります!!
おっしゃー!取材に行ってくるよ!後よろしく!!
(←レープの席。『登山中。御用の方はロッキー山脈まで』の札が置いてある)
陸軍総司令はやる気はありますがぶっちゃけ邪魔です。参謀総長は行方不明です。元帥のうち一人は役に立ちません。
マンシュタインさんは技術研究もありますから事務仕事ばかりしていられませんし、そう考えるとドイツ陸軍に六人いる元帥のうち、真っ当に書類仕事が出来るのが二名となります。
結果、楓さんとルントシュテットさん……特に各軍との連携やら、軍全体の統括やらをやっている最古参のルントシュテットさんの負担が激しく大きくなって来てまして。
……。元帥とか総司令とか参謀総長のサインが必要な案件って結構ありますよね?
はい。ですんでぶっちゃけ、
の人が参謀総長のハンコ持って書類仕事を手伝って回ってます。
……なんで、フランス人がドイツ軍の参謀総長の仕事を代行してるさ……?
あと、蒼子さんはとりあえず目の前に書類置けばハンコは押してくれます。ただし、彼女が風邪で休んだ時に代理にタヌキの置物を置いて、『ご自由にお使い下さい』と書いたハンコ置いておいても業務効率は一切落ちませんでした。
……参謀総長と陸軍総司令の平時における使えなさが際立ってるさね…。
なまじ戦場では有能と言うのが困りものですね。特にレープさん、参謀総長なのに完全な前線指揮官ですから……我が軍に於いて、参謀本部は最前線で敵陣に切り込んでいくポジションです。
いや、おかしいでしょうそれ!?
『戦争は会議室で起きてるんじゃない、現場で起きてるんだ!』と言う奴でしょうか。ただ、前線にそんな作戦立案本部があるお陰で、情報の伝言ゲームや伝達速度の遅れが発生する可能性は他国に比べて極めて低いです。その分参謀本部勤務の危険度は鰻登りですが。リッター・デア・フライハイトと一緒になって突撃することになりますし。
……突っ込みどころ満載さ…。
まぁ、事務の出来る軍人の不足は、同盟国……ニュージーランドとかスペインから、「人材派遣しようか?」と心配げな声が聞こえるくらいでして。それはさておき、チャリティーコンサートですが。
……まぁ、仕事の無い方々がやる分には良いでしょう。今の話聞いてると、良いから陸軍の事務仕事手伝えって気にもなってきますが。
その頃俺はエロゲ“THE Adult M@STER”をやっていた。 †
〜同刻、ベルリン〜
はい、ここでステップ踏んでー、くるっと回って、キラッ☆
……き、キラッ☆
ちゃうちゃう、モーデルはん。笑顔がカタいでー。スマイルスマイル。
………いや、ギレーヌ。なんで私がお前の練習に付き合わなきゃいけないんだ!?出るのお前!私関係無いだろ!?
どーせモーデルはん、暇なんやろ。
…まぁ、そうだが。
なら、一緒に練習してくれてもエエやーん。個人練習やけど、一人でやるの詰まらんしー。
いや、だからって、なんで私までダンスと歌を……。
ノリ。
ノリで魔人に芸を仕込むか……たまにお前の正気を疑いたくなるな。
ええやんかー、友達やん。帰り、ベルリンの甘味処でスイーツ奢るからー。
……シェレンベルク情報で星三つの所で手を打とう。
うげ……シェレンベルクはんのおススメのトコ、高い上に競争率高いんやもん……あーあー、しゃーないわ。それで手ぇ打ったるわ……。
……。
(友達、か……この私が?)
(魔人、悪鬼、悪魔―――そう言った呼称の中に、また似合わない物が混ざったものだな……)
はい、それじゃあもう一回やでー。はい、ステップステップ、ターンでキラッ☆
……キラッ☆
おーい、俺の前にこの欄でエロゲ語ってた馬鹿殴って良いかー。 †
〜数日後、ベルリン〜
元帥、久しぶりの遠出ですけどお身体は大丈夫ですか?
ああ、大丈夫だ。……ふっ、ルフトヴァッフェの将官達も元気そうだったな。
元気過ぎです。相変わらず、ミドルスクールの学生みたいな騒ぎっぷりでした。
……独ソ戦前に、彼らに激励をしたかった……ですか?
そう、だな……いや、会ってみたかったのかもしれん。単純にな。
……会って……?
USAAFを打ち破り、恐らくこの戦争最大の……いや、事によると二十世紀最大の戦争で空を駆けるであろう、ルフトヴァッフェの英雄達に、だ。
………。
……そう悲しそうな顔をするな。確かに私は飛べなくなったが……それでも私の翼を受け継ぐ者、私の翼を目指す者は居る。クラウディア・ミルヒなど面白い事を言っていただろう?
……『貴方は唯一の、この私を撃墜したパイロットなの。世界大戦最高のエースの称号、謹んで受け取りなさいな』ですか。それ、つまり自分がキャノン元帥を除けばこの大戦で最高のエースになってやるって事ですよね。
それに、アドラー・ガーランドも言っていた。「アンタを超える世界大戦最高のエースになってやる」とな。両立しない宣言だが、この二つの宣言の結果を見届けるまでは死ねんな。
……黒鼠がパーソナルマークの彼ですか?お言葉ですが、未だそれほどの腕とは…。
ああ。まだ未熟だ。だが、セリスと同じで―――磨けばまだ、幾らでも伸びる未完の器だ。もしかすると、私よりも。
…素晴らしいではないか。私は祖国を守るための翼を失い、地に落ちた。だが……セリスのように私の翼を受け継ぐ人間が、ガーランドのようにそれを越えようとする人間が、ミルヒのようにそれを認め守ろうとしてくれる人間が居る。
そして、お前もいる。私は幸せ者だよ、ミッチャー。
……元帥。
…さて、それでは帰ろうか。
独軍主催のチャリティーコンサートが、これからあるそうですよ?見ていかれませんか?
ああ、先程ガーランド達が騒いでいたのはそれか?
いえ。それもあるんですけど、その、彼のパーソナルマークの黒鼠について……。
ガーランド、貴方のパーソナルマークについて使用料払えって米国の某テーマパークから督促状来たから、新しいパーソナルマークを考案したわよー。
名付けて「プリティラットのジャック・蒋作」だ。これが写真。
何コレ!?中国戦以来日本海軍のハードゲイに預けられてから全く行方知れずだったオッサンに、ネズミの着ぐるみ着せただけなんですけど!?しかも何でこのオッサン、着ぐるみの頭部小脇に抱えてポーズ取ってんの!?
予算から使用料払うのを沙耶子が嫌がったから、このジャック・蒋作を貴方の次のパーソナルマークとして提案しておいたわー。好きな言葉は酒池肉林だそうよ。
それぜってぇ中身の好きな言葉だろ!せめてプリティラットで行こうぜ!?なんでジャック・蒋作主体になってんの!?嫌だぞ俺こんな脂ぎった中年の顔を描いた機体で飛ぶの!!最悪、使用料の値段次第だけど俺の給料から払うから!!?
……え?
しまったな……早まったか。
おォォォォォい!?お前ら俺の機体に何したァァァァァァ!!
……って感じで。
……。私の退職金と年金がかなり余っていただろう。多少で良いなら、融通しようか……。
…いやあの、良いんですか?
……ミッチャー。
はい。
…幾ら私でも、「プリティラットのジャック・蒋作」と言う名前の中年をパーソナルマークにする男に目指され、最悪越えられでもしたら……死んでも死にきれん。
……ですよねー。
それと、チャリティーコンサートだったか。……やめておこう。車椅子だと場所を取る上に、そう言う場の雰囲気に馴染めるとも思えん。いや、お前だけでも見に行ってくるか?
いえ、元帥がそう仰るなら私もやめておきます。それじゃ……アメリカに帰りましょうか。セリスが首を長〜〜〜くして待ってますよ。
はは……ありそうだ。
……うう、ずるい……。
すおめんさん提唱の、『とりあえずいろんなAARで脈絡も無くミッチャーを出して見るキャンペーン』のせいで、ミッチャーさんと元帥にだけ出番が……。
……ぐすん。
おい待てお前ら、題名欄で会話をするな。……俺もか? †
〜会場 来賓用控え室〜
どうぞ、粗茶ですが。
ありがとうございます。―――中々の盛況ですね、チャリティコンサート。
ええ、お陰様で。そちらは公務のついでですか?
はい。ですが……この度、スペイン国粋派の要職にある二人が結婚しまして。まぁ、メタな話すると愛あん あっさりスペインルートのあの二人ですが。
それはそれは……おめでとうございます。
ありがとうございます。で、その二人と飛行機一緒になっちゃって……。
うわ、それはなんて言うか……気まずいですね。
ええ、とても。しかも席が三人並んでるって、何の拷問かと。ルナからは「邪魔!」って視線で射殺されそうでした。
その結婚なさったお二人も、このコンサートを見に来てるんですか?
ええ。彼ら―――メディナ・ベイグベデル・アティエンサさんとルナ・デ・ララメンディさんも、このコンサートは見に来てるようです。これを見終わってから、ベルリンを見て回るつもりみたいですけど。
丁度来る途中に、コンドル軍団の支援の関連で知り合った空軍のお歴々に捕まって控室に連れて行かれましたけど。
ふふ。ベルリンは戦時中にも関わらず、結構豊かで治安の良い街です。入国検査は厳しかったでしょうけど、楽しんでいって貰えると良いですね。
そうですね。折角の新婚旅行なんですから――――
ガシャン!!
……っ何事ですか!?
…今のは……。控え室の方向?
〜コンサート会場 控え室〜
……だから、俺は止めろとあれほどだな。
あわわわわ……どどど、どうしよう……。
あばばばばばば。
うべべべべべべ。
……なんですか、この状況。
ふ、ふらんこ!?いやあの、私が激励用にクッキー作って来たんだけど、それ食べたらこの二人が何故か……!!
…だから食うなと言ったろう。塩と間違って塩素を入れる、驚異のうっかり似非メイドだぞ。ドジっ子メイドなど実際に居たら迷惑でしか無いという生きた実例だ。
う、うるさいわね!仮にも妻の料理になんて事言うのよ!?
結果が全てだ。よもや同盟国の将官を仕留めるとは……ソ連の諜報員が泣いて教えを請いそうな手腕だな。
し、死んでないわよ!まだ!!
まだ!?ちょ、大佐!大佐、しっかりしてくださーい!!?
だ、大丈夫だ……多少身体が痺れるが、踊れない事は無い……。
いや無理ですって。生まれたての小鹿みたいになってますよ足。
膝が踊っている。
誰が上手い事言えと。
だが、どうするんだ……私はバックダンサーだからまだ良いが、メインボーカルのギレーヌもやられたのは痛い、痛すぎるぞ……。
がちゃっ
おい、騒がしいが何かあったの――――あったんだな。
ああ、モーデルか。ふっ、すまん……ちょっと大変なクッキーを食べただけだ。
意味が分からん。
……も、モーデルはん……?
お、おい。大丈夫か?なんか痙攣しているが。
経験則だが、何を作ってどんな失敗をしても食べた奴は一日で復活出来るぞ。本格的に人に害を成す料理は作れないらしい、どういうわけか。
御都合設定ですね……。
……も、モーデルはん。お願いがあるんや……!!
……な、なんだ。
ウチの代わりに、歌って踊って……!!
……。
……。
……。
……。
……。
……。
え゛?
……モーデルさんが踊り……?
……しかも歌う!?
…出来るの?
ウチと一緒にずっと練習してたんや……完璧にマスターしとるし、歌はウチより上手いくらいや。
いや待てちょっとお前。何で私が……。
ぐふっ!何か今頃になって酸っぱい後味がァ!?
……ああ、来るよな。こいつの料理。
…凄いしみじみ言いますね。
…何度も食わされてるからな…。
お願いや……あんたさん以外に頼める相手がおらんのや……!このチャリティー資金の行先の孤児たちの為にも……!!
…主ヘスの命令でない以上、魔人である私が従う理由は…。
ええやんかー、友達やん。帰り、ベルリンの甘味処でスイーツ奢るからー。
―――。一週間、シェレンベルク推奨スイーツ巡りツアー全額奢り。それで許してやる、友としてな。
……了解や……サンキュな、友達。
おい、ガーデルマン。他の連中にもルーデルとギレーヌが倒れて、私がギレーヌの代わりに出ると伝えろ。
へ?は、はい。分かりました!
……い、意外ですね。やるんですか?
……ふん、気まぐれだ……ただの、な。
……あ、モーデルはん。向こうのロッカーに、衣装入っとるから。
……。衣装?
………。軍服じゃ駄目なのか?
……駄目に決まっとるやろ。浮きまくりやで、間違いなく。
いや、でも、流石に衣装とかは……。
ふらんこはん!!
はい。モーデルさん、こっちですよー。さぁ、脱ぎ脱ぎしましょうね。
ちょま!?おま、待て、分かった、自分で脱ぐから!?
いや、ちょっと待て!?これ布地少なすぎだろう!?
ううう、コートの肩幅が合わない……仕方ない、これはパーツを分割して、腰に付ける感じで……。
この台本……うう、多少変えても良いとは言われたが、基本このノリで行かねばならんのか……。
……うう……スースーするぅ……。
ちょっとあんたら、この欄で遊んでるんじゃないわよ… †
〜そして、コンサート本番〜
それでは、ドイツ軍の皆さん!どうぞー!!
みんなー!今日は来てくれてありがとー!!
わああああああああああああああああああああああ!!
まず一曲目。曲名は「Blau_Vogel」!いっきまーす!!
わああああああああああああああああああああああ!!
〜SS巡回中〜
………。なぁ、ハウサー。私、疲れてるのかなぁ。
………いや、隊長。私も幻覚と幻聴が見える。
ああ、お前もか……。
わー、モーデルだー。歌うまいねー。
ん。意外な特技って奴かね。
……ああ、お前らにも見えるのかぁ。ってことは現実かなぁ――――って。
あいつは何やってるんだァァァァァァァ!!?
〜〜〜♪〜♪
(ああ、もう。なにをしてるんだ私は!)
(魔人ともあろうものが、こんな恰好でこんな場所に立ち、人前で踊って歌って……)
(ああ、でもなんだろう。このステージと観客の一体感……)
(…………あれ?なんか、これ……)
(………。楽しいかも……?)
キラッ☆
皆、ありがとう!寂しいけれど、最後の曲です。『relations』!!
良かったら一緒に歌ってね!
わああああああああああああああああああああああ!!
それじゃあ、行くよー!!
そして、数日後――――
主ヘス。頼む、私を封印してくれ。むしろ殺してくれ!!?
いやいや、良いじゃありませんか。中々好評ですよ、歌姫モーデル。ほら、写真もしっかり取れてます。
うがああああああ!?や、止めろ!あの一時のテンションに身を任せたイタい私を見せるなァァァァァ!!
国営放送から映像使用許可の打診が来てましたが、OKしちゃって良かったですよね?もうしましたが。
よし、国営放送局潰してくる!!
丁度今放送中です。ああ、ファンクラブも出来るそうですよ。良かったですね。
うがあああああああああああああああああああああああああああ!!?
これは、独ソ戦前に起こった、小さな小さな物語
ドイツで起きた、独軍特有の無数のお祭り騒ぎの、小さな一つ。
誰もが知りながらも、誰も(モーデルが怖くて)口に出せない、後世に伝えられない物語―――(黒歴史的な意味で)。
外伝その4 終われ
追記。
画像をコンサート風に加工してくれた、並びにネタ出しをしてくれた緑炎さんに感謝を。
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